タヌパック短信 8

●続「植物物語」に騙されてしまった

 先月号に引き続き、「石鹸生活」について考えてみました。
 大手企業が「植物原料の合成洗剤」を大々的に宣伝し、環境派の人たちを取り込もうとしている一方で、中小の石鹸メーカーの中にも、石鹸だけで商売をやっていく自信がなくて、こっそり「植物原料の合成洗剤」を石鹸に似せて売っている(つまり大手企業の「植物原料ブーム」に便乗しようとしている)企業が多いようです。
 問題は、それを見分けるのは素人には困難だということです。
 先日も石鹸を買うために駅前のスーパーに行きました。「環境に優しい商品を扱う」と宣言し、店内放送などでもそのことをさかんにPRしている店ですが、石鹸成分のシャンプーは一切置いていません。純植物性の合成洗剤が「地球に優しい」という手書きの宣伝表示カード(スーパーが作った)と一緒に陳列されていますし、純石鹸と「偽石鹸」(植物性の合成洗剤)が同じように並んで置かれています。
 また、「せっけん」という表示はどうか知りませんが、少なくとも「ソープ」という言葉は堂々と合成洗剤の商品名に使われています。「ボディソープ」と呼ばれるものの大半は合成洗剤か混合石鹸のようです。
 シャンプーは最も見分けが困難です。洗剤類は家庭用品品質表示法により通産省の管轄ですが、シャンプーは薬事法対象商品で厚生省の管轄で、主成分を表示しなくてもいいらしいのです。
 例えば、T石鹸株式会社が出している「植物にこだわった安心素材の植物性シャンプー」は、指定成分の〈安息香酸塩、エデト酸塩、香料〉しか書いていません。主成分は謎。酢を入れて実験してみたらまったく白濁せず、やはり合成洗剤でした。容器には桃の葉っぱが描かれ〈赤ちゃんの入浴などに使われている桃葉〉なんて書いてあります。会社名からも石鹸シャンプーだと思って購入する人はいるでしょう。
 ちなみにこの会社は他に洗濯用の固形石鹸など、ちゃんとした石鹸も作っているし、聞いた話では障害者施設に寄付なども行っているそうです。このシャンプーはかなり多くのスーパーで手に入るので、これが本物の石鹸シャンプーならどんなに助かることか……。
 表示法のことを改善するように行政に迫っても、どうせ実現するまでには長い時間がかかるでしょう。下手すると改悪になってしまうかもしれません。
 そこで、購入者に一目で「本物の石鹸かどうか」が分かるような共通マークを考案し、行政とは無関係にさっさと良心的な石鹸メーカーの間で表示するようにしたらどうでしょう。法的な拘束力や権威は何もない。その代わりに条件は極めて明瞭にする(その点でエコマークなどとは一線を画します)。あくまでも自主的にやっているものとしてスタートさせるのです。ただし、意匠登録は当然行い、インチキ表示はできないようにする。石鹸成分以外の界面活性剤を含むものはもちろん、エデト酸塩や防腐剤などの余分な成分を添加した商品への表示も認めない。
 とにかく、厳しい条件を満たした本物の石鹸だけが表示できるマークを「勝手に」考案し、賛同する企業が「勝手に」表示する……どうでしょうか。
 できればラッコやマンボウなどの親しみやすいデザインがいいと思います。石坂啓さんあたりを口説いて、例のネコの図柄などを使わせもらえれば最高。大企業の妨害は必至なので、そのくらいの戦略は必要でしょう。
 このマーク(仮に「ラッコマーク」とでもしましょうか)の下には、「ごまかしのない本物の石鹸」というロゴでも入れる。そしてこの「ラッコマーク」をシンボルにして、「どうして本物の石鹸じゃなければいけないのか」という情報面でのPR、啓蒙運動も展開していくのです。
 最初は弱小メーカー数社の参加でもいいんです。T石鹸のような、高品位な石鹸も作っているけれど、姑息な石鹸もどき合成洗剤商品も作っているというメーカーには、徐々にラッコマークの付けられる商品だけを作るように働きかけます。もちろん(合成洗剤で儲けている)大手企業にもこのラッコマークの使用を認めます。
 小売店にはラッコマークのついている商品を少なくとも各ジャンル(洗濯用洗剤、化粧石鹸、シャンプーなど)に一つずつは仕入れるように働きかけます。都市部のスーパーでは「環境問題に無頓着」というレッテルを貼られることはかなりのイメージダウンにつながります。客が「おたくでは環境問題に気を配っているとか言いながら、ラッコマークの商品さえ入れていないじゃないの」と言えるようになります。
 エネルギー問題やゴミ問題は本質を学ぶのに相当な知性や理解力を要求される面がありますが、石鹸復活運動はそれに比べればかなり明快です。的確な戦略を展開すれば、勝算はそれなりに出てくるのではないでしょうか?


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