タヌパック短信 14


●ソープランドは夢の国


 ……なーんていうタイトルを付けると、ぎょっとする読者がいっぱいいるだろうなあ、むふふふふ。
 石けん生活を考えるシリーズの続きです。
 最近、北九州市のシャボン玉石けん株式会社という石けんメーカーの「友の会」なるものに入りました。企業や特定の人物の「友の会」的なものはあんまり好きじゃないんですが、ここの会報というのが面白くて、それを読むだけのために入ったような感じです。
 社長の森田光徳さんという人は、この世界(石けん社会?)ではかなりの有名人のようで、かつては合成洗剤を作っていたのが、合成洗剤の毒性に気づき、四十三歳から無添加石けん製造一筋に転向したという硬骨漢。この社長の巻頭エッセイやインタビュー記事は特に読み応えがあります。
 乏しい儲けをつぎ込んで全国紙に意見広告を打っても、新聞社側の規制により合成洗剤の毒性をストレートに表現できないとか、まったく同じものなのに、役所の管轄が違うために洗顔用、台所用、洗濯用……と、別々のパッケージ、表示法をしなければいけないといった内情を赤裸々に報告している貴重な情報媒体なのです。
 森田社長の足元にも及びませんが、どうしたら合成洗剤の使用を減らし、石けんに切り替えられるのかということについては、僕もこのところずっと考えています。
 石けんというのは、製品の質を上げると大量生産するのがなかなか難しいもののようです。
 無添加石けんの製造は熟成期間もかかり、熟練工の勘と技術が製品の品質に大きく影響する。珪酸ソーダや炭酸ソーダなどの添加剤を使うと製造期間が短縮できるが、品質は落ちる。そこで、香料や着色料をどんどん入れて見栄えをよくする……。
 この話を読んでいて、なんだか石けん製造というのは酒造りに似ているなあと思いました。全国規模で大量に売られている有名な銘柄の酒にあまりうまいものはありません。あちこちから原酒をかき集めてブレンドし、醸造用アルコールを添加したものに、同じラベルを貼って売ったりするので、特徴も出にくい。
 かつて「幻の酒」と言われた「○の△梅」なんていう酒は、今では全国どこの酒屋、スーパーでも売られています。「別選」などと銘打ち、醸造用アルコールを添加したいい加減な酒で、実際飲んでもうまくありません(それで1万数千円もする!)。名声に溺れ、堕落してしまったわけですね。
 それでも、日本酒に関しては「味」という分かりやすい判定材料があるので、そうそう情報操作や広告に左右されることなく、うまい酒をしっかり造る酒蔵は生き残っています。
 石けんもこういう商売ができないものでしょうか? そこで考えたのが「ソープランド建国計画」です。
 特に地場産業もなく、過疎化に悩む村や町などに、高品質な石けんを作る工場をいくつか作ります。そこでは有害な添加剤を使わず、高品質な石けんを作り、なおかつ洗髪用石けんなどには独自の工夫を凝らす。グリセリンとクエン酸を添加した洗髪用石けんであるとか、アロエエキスを添加した石けんシャンプーであるとか、いろいろ試して競争するわけです。
 で、こうした石けん工場をいくつか抱える町を「石けんの国」として売り出す。「蛍の里」とか「鯨の町」なんていうイメージだけの町興しごっこではなく、きっちりと「なぜ石けんなのか」を主張していく。町をあげて、合成洗剤は使わない。河川をコンクリートで固めないという高潔な町宣言。
 石けんを使わず、合成洗剤やシャンプーを使うなんていう生活は、無知な上にかっこ悪い。本物を知らない無教養の証拠だ……という情報の流れを生み出す拠点となる覚悟を持つ。
 そして、まともな石けんを置いていない小売店やスーパーは「駄目な店」、石けんを置かずにボディソープ(という名の合成洗剤)を置いてあるようなホテルは二流以下である、といった価値観、常識を浸透させていく。
 やがて石けん製造は誇り高き産業のシンボルとなり、全国的に「お国自慢」の石けんが生まれる……。
「△△村で作っている吾妻譽はいい石けんですねえ。私の肌にはいちばんしっくりきますよ」「そう、あれは本物よね。でも私は××町にある□□石けんが作っているグリーンフィールズが好き。グリセリンの配合の度合いが私の髪に合っているみたい」……というような会話が日常的に交わされるようになればしめたもの。もう一息。
 世論が政治に働きかけ、合成洗剤のように環境にも人体にも有害な物質を製造・販売する場合には高額の税金をかけるという法律を作らせる。処分困難なゴミによって環境が破壊され、文明の存続が危ぶまれている今、製造段階できちんと税金をかけないのが間違いのもとなんですから。
 でも、こうした町起こしをする際、「石けんの国」という意味で「ソープランド」というのは使えそうもない。
 特殊浴場のことを昔は「トルコ」と言っていましたが、それを知ったトルコ人の青年の涙ながらの訴えで、日本国民は一生懸命「トルコ」に代わる新しい名称を考え、いつしかソープランドという名称が定着したわけです。たった一人の提言が、国中を動かすこともあるという好例ですね。
 無理かなあ、「夢の国・ソープランド」の実現は?


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