タヌパック短信 11


●平仮名ばかりのファンレター

 四月六日、十五年ぶりの演奏会はほぼ成功に終わりました。主催も兼ねていたので、実際に演奏する前に疲労困憊してしまった感がありますが、お客さんには満足してもらえたようです。
 終わってから気が抜けたのか、数日後に風邪を引いてしまい(実に数年ぶり)、まだ調子が戻りません。
 その演奏会を前にしたある日、二通の郵便物が同時に届きました。一つは北九州市の増永研一さんから。「草の根通信」でも紹介されていた『路面電車音曼陀羅』というCD。松下センセから僕へ送るようにと代金を受け取りましたとのこと。ほんとに恐縮です。
 街の騒音を録音するというのは僕も学生時代によくやったので、懐かしさを覚えながら拝聴しました。
 もう一通は広島の栗栖晶さんからのもの。平仮名ばかりの長い手紙と一緒に、彼の日記をまとめた『ぼくはてんさいかのう』(径書房)が同封されていました。その手紙から一部抜粋させてもらいます。

[たくきさんぼくはうっとりしました うれしくなったけーはははーとわらいました こんにちわぼくはくりすあきらです えらいこのあきらです ぼくはたぬきと5せんふのしーでいをききましたぼくがずーときいています うれしくなるからきいています かえるのこえをきいたらおばあちゃんのところをおもいだします おばあちゃんのいえにもおおきなかえるがおるんよおばあちゃんのいえはねやまからさるがくるよー すいかやらめろんやらがたべられるようになったらさるがだまってもってかえるんよありがとういわんっこつにしめしめこれはうまげなのうキャキャーいうてやまへもってかえるのです にんげんはのこりものをたべるのですおじいちゃんもおばあちゃんもこまっています いのししもでるよーきつねもでるよーたぬきもいっぱいいます ところでたぬきさんはげんきですかー ぼくはたぬきのこえをきいたらおどりたくなりますおかあさんといっしょにおどりますかえるのこえをきいたらひめがいえの中をはしりまくります からすのこえをきいたらまどのところにいってからそとをみます ひめはねこです ぼくはわらいますあんたはたくきさんにだまされたんよーいうてわらいますはははーとわらいます ぼくのいえはあかるいかていになりましたみんなしあわせになりました たくきさんはみんなをしあわせにするしごとをしとるんじゃね ぼくはいまたくきさんのしーでいをききながらてがみをかいています うっとりしています……]

 手紙はこんな感じで延々続いていました。最初は子供かなと思ったんですが、栗栖さんは成人しており、同封されていた本は昨年彼が成人した記念にと出版されたものだそうです。
 お母さんからの手紙も添えられていて、知人からCD『狸と五線譜』をプレゼントされて以来、息子の晶は毎日夢中になって聴いています……というようなことが書かれていました。
 そこでピンとくることがありました。一昨年、TBSラジオの『五木寛之の夜』で五木さんが僕のCD『狸と五線譜』を紹介してくださった折、ちょうど出版したばかりの小説『天狗の棲む地』と一緒に聴取者プレゼントをしたのですが、ディレクターに頼み込み、後日、応募してきた葉書を全部見せてもらいました。その中に、Aさんという女性がいました。当時は東京在住で、ボランティアで盲人用のテープ刊行物などの製作に携わっているというようなことが書かれていました。
 Aさんは抽選からはもれていたのですが、気になる葉書だったので、他の気になる葉書と一緒に、追加で十人に、僕のほうから個人的にCDをプレゼントしました。
 暫くしてからAさんから丁重なお礼状が来て、その後、CDを三十枚くらい追加で買ってくださいました。
 彼女は昨年、仕事の関係で郷里の広島に戻っています。彼女から栗栖さんにCDが渡ったに違いありません。
 僕はさっそく彼女にお礼状を書きました。「これはあなたの『仕業』ですね? どうもありがとう」と。
 推理はズバリ的中でした。実は彼女は僕からの手紙を受け取る数時間前に、僕宛に手紙と栗栖さんの本を投函していました。彼女は栗栖さんと同じ小学校の先輩でもあり、昨年『ぼくはてんさいかのう』が出た後、点字図書館用にテープに吹き込みするときの朗読を担当した縁で、彼と文通するようになったそうです。今年のホワイトデーに栗栖さんから「もうすぐほわいとでーですね。ぼくはおかあさんといっしょにびっくにいってきゃんでーをかいました。10こかいました 1ばんやすいのをかいました 1つはAさんにあげます」という手紙と共にキャンディーを送られ、それのお礼にと僕のCDを送ったそうです。その顛末を書いた手紙と彼の本を僕に送った直後に僕から手紙を受け取ったわけです。その夜、「りんごを貰ったら、送り主だけでなく、そのりんごを育てた農家の人にもお礼を言う晶くんの性格を忘れていました」というFAXが届きました。
 栗栖さんには、『狸と五線譜』の元になった自然の音をまとめたカセットテープを送りました。二冊になってしまった本は、たまたま翌日「『カムナの調合』の出版記念に」と寿司をごちそうしてもらった作詞家の伊藤アキラさんに差し上げました。同じ「あきら」だし、詩人でもあるということで。
 こんな「草の根」的なコミュニケーションも、なかなかいいもんですね。


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