たくき よしみつ の 鐸木能光のデジカメ・ガバサク談義 ガバサク談義

フルサイズデジタル一眼を考える

プロの道具としてなら口出ししませんが……

2007年秋にNikonが、2008年秋にSONYがフルサイズデジタル一眼の製品を発表し、それまで事実上Canonだけだったフルサイズ機の市場が一気に活気づいたと言われています。
最初にお断りしておくと、私はプロカメラマンではありません。フルサイズ一眼はプロカメラマンの道具だと思っており、その意味では細かなことをあれこれ口出しするつもりはないのです。
ただ、一般的なカメラ好き、写真好きのアマチュアユーザーが、「20万円台なら手が届くかもしれない」と思ってフルサイズ機を買うことには、いささか疑問を感じます。

以下、アマチュアカメラマンの一人として、現在のフルサイズデジタル一眼について、感じていることを書きます。

メーカーは「ハイアマチュア」をバカにしているのではないか?

現在、10〜20万円台でボディが買えるフルサイズ機としては、キヤノンのEOS 5D、5D MarkII、5D MarkIII、6D。 ニコンのD600、D700、D800などがあります。ソニーはα900を生産終了した後の後継機種がなかなか出ず、2012年になってからようやくα99の発売を発表しました。
これら、ハイアマチュア向けのフルサイズ一眼はどうなのでしょう。


ニコン D4 
1620万画素
最安実売価格 約51万円
ニコン D800 
3630万画素
最安実売価格 約23万円


キヤノン EOS-1D X
1810万画素
最安実売価格 約55万円
キヤノン EOS 6D 
2020万画素
最安実売価格 約15万円
上の比較を見れば一目瞭然ですが、

プロ用の高価格高級モデルは画素数が少なく、
ハイアマチュア用と謳っている低価格機は画素数が多い


のです。

撮像素子面積は0.1mm程度のばらつきはあるものの、すべてフルサイズ(35mmフィルム1コマに相当する36×24mm)。しかし、撮像素子の基本解像度が大きく違っています。
ソニーが初めて出したフルサイズ機α900は、6048×4032ピクセル(2438万5536画素)でした。これは、APS-Cサイズの約1000万画素撮像素子の周りをそのまま広げてフルサイズにしたものに匹敵します。実際、α900にAPS-C用のレンズ(いわゆるデジタル専用レンズ)をつけると、自動的にフルサイズ撮像素子の真ん中部分、APS-Cサイズ相当を使った撮影が可能でした。しかし、この撮り方ではフルサイズの意味がありません。

キヤノンはEOS 5D(生産終了)では4368×2912ピクセル(1271万9616画素)でしたが、5D MarkIIでは一気に2110万画素に倍増させてしまいました。その後も6Dが2020万画素、5D MarkIIIが2230万画素と、現在のモデルはすべて2000万画素超になっています。

ニコンは最初の低価格機D700では4256×2832ピクセル(1205万2992画素)で、当時のニコンの新フラッグシップモデルとなったD3と同じでしたが、その後、D600は2400万画素、D800は3630万画素と、一転して画素数競争をし始めました。
D3に代わるフラッグシップモデルのD4が1620万画素に抑え気味にしたのとは対照的に、「ハイアマチュア」向けのフルサイズ機では画素数競争を始めてしまったことはがっかりです。

D3を出したとき、ニコンの開発者は、「1200万画素はプロの現場でのあらゆる使用を考えたとき、最もバランスのよい仕様」と言っていました。私もそう思います。

拙著『デジカメに1000万画素はいらない』(講談社現代新書)にも書きましたが、1000万画素を超える解像度が必要な写真というのは、プロカメラマンの仕事でもそうそうはないのです。週刊誌の1ページ全画面グラビア撮影でも1000万画素あれば解像度的には足ります。ましてや、粒子の粗い新聞写真などでは解像度の高さはデメリットでさえあります。
解像度を上げれば、1画素あたりの受光量が減りますから、色階調やダイナミックレンジ、ノイズなどの点で不利になります。暗い場所でいかにクリアな画像を記録するかという報道カメラマンなどにとっては、解像度の高さによって写真の色調やノイズが犠牲になるというのは耐えがたいことでしょう。

ちなみに、フルサイズというのは36×24mmで864平方mm。APS-Cサイズはばらつきがあるものの、D90を例に取れば、23.6×15.8mmで約373平方mm。面積にして約2.3倍あります。フルサイズ機のニコンD3の約1200万画素を、同じ画素ピッチを保ったままAPS-Cサイズに切り取ったとすれば、約517万画素です。
ニコンが主張するようにプロが使うフルサイズ機でも「1200万画素くらいがいちばんバランスがいい」のだとすれば、その半分以下の面積しかないAPS-Cサイズの撮像素子に1200万画素以上詰め込むことの説明がつきません。

キヤノンも、プロ向けのフラッグシップモデルEOS-1Dは1810万画素です。「ハイアマチュア」向けとして低価格で出しているフルサイズ機であるEOS5Dや6Dより画素数は少ないのです。
つまり、キヤノンもニコンも、「プロは騙せないから、プロ用ハイエンドモデルは画素数を抑えるが、アマチュアは画素数になびくから、ハイアマチュア向けフルサイズ機は画素数を上げる」という作り方、売り方をしていると思わざるをえません。

フルサイズ機を選ぶ理由とは?

フルサイズ機がAPS-Cサイズデジタル一眼より優れている点は、主に、
1)概ねAPS-Cサイズデジタル一眼より画素ピッチ(1画素あたりの面積)に余裕があるので、よりダイナミックレンジの広いきれいな画像が期待できる
2)35mmフィルムカメラ用のレンズをそのままの画角で使える

の2点でしょう。しかし、
1)に関しては、D800のように3000万画素超などという画素数にしてしまったら、APS-Cサイズモデルとの画素ピッチの差はなくなってしまいます。
2)に関しては、画角が同じになる便利さはあっても、フィルムとデジタル撮像素子とはまったく同じではないので、「もともと35mmフィルム用に作られたレンズを撮像素子用に代用している」ということに変わりありません。フィルム用のレンズを使う無理──具体的には、広角レンズの周辺での微妙なモアレ感や歪み、ピンボケ感などを完全に解決するのは難しいのではないかと思われます。
今後、フルサイズデジタル一眼専用として完全に新設計・新開発されたレンズ(特に明るい単焦点のレンズ)が出てくれば、そういう問題は消えていくでしょうが、そうしたフルサイズデジタル一眼専用レンズを開発するとすると、相当な値段のものになってしまうでしょう。
また、ニコンとキヤノンはボディ内に手ぶれ補正機構を内蔵していないので、手ぶれ補正機構を内蔵していないレンズを使ったときは補正が効きません。
手ぶれ補正機構内蔵レンズの多くはデジタル専用レンズ、つまりAPS-Cサイズ用のレンズなので、フルサイズモデルには使えません(装着できても、フルサイズ撮像素子をめいっぱい使えるというフルサイズ機のメリットがなくなり、意味がありません)。フルサイズで使える手ぶれ補正内蔵レンズは、一部の望遠ズームや巨大な望遠単焦点レンズに限られています。
こうした状況下では、アマチュアが気軽に持ち歩くデジタル一眼としてフルサイズのメリットはあるのか、と疑問を感じます。むしろ、APS-Cサイズ用のデジタル専用レンズのほうが、小型で望遠性能がよかったり、手ぶれ補正機構が内蔵されているレンズが増えてきているので、そのメリットを生かせる分、よい結果が得られるのでは、とも思います。
もちろん、値段は圧倒的に違いますし。
フルサイズ機を使う人というのは、専用照明を備えたスタジオで商業写真を撮ったり、大型の三脚の上に巨大な望遠レンズをつけたカメラを据え付けてスポーツ写真を撮るといったプロカメラマンでしょう。
それなりの付帯設備がなければ、フルサイズ機の差を見せつけるような写真はなかなか撮れないのではないでしょうか。
シャッターチャンスが命という写真であれば、デジタル専用の広域ズームレンズをつけたAPS-Cサイズデジタル一眼のほうがずっと使いやすいし、結果として「いい写真」が撮れる確率は上がるのではないかと思います。
さらに言えば、レンズ一体型モデルでいいではないか、と思うのです。

……とまあ、アマチュアの私はこの程度のことしか考えられませんので、後はプロレベルのかたがたのお考えやポリシー、思い入れなどにお任せする他はありません。このレベルの話では、何が正解かというようなことより、個人の思い入れや好き嫌いなどが優先されるでしょうから。

結論 ガバサク流お勧めの一眼はこれ!


ニコン D5000お勧め


SONY α57お勧め


キヤノン EOS Kiss X7i
バリアングル液晶。この後のD5100で1600万画素に上がってしまい、その後は画素数増やし路線に堕落してしまったニコン……。2009年発売で1290万画素(総画素数)に抑えられた最後のモデル。後継機種D5100も、D5000より安く買えるならお勧め。D5200以降は単に画素数競争に戻っただけで魅力がなくなった。
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画素数1610万の最後のカメラ。2000万画素超えの後継機α58が出てついに1600万画素のカメラが消えてしまった。バリアングル液晶搭載。
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キヤノンはだいぶ前から1800万画素が最低になってしまった。1220万画素のKiss X50は画素数の少なさが魅力だが、液晶が固定式なのが残念。1800万画素で諦める(多すぎると思うが……)なら最新モデルということで。60DもKissシリーズ以外で1800万画素最後のモデルとしてお勧め。
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