たくき よしみつ の 鐸木能光のデジカメ・ガバサク談義 ガバサク談義

マイクロフォーサーズに期待するもの

マイクロフォーサーズとは何か?

オリンパスが提唱し、パナソニックやライカが採用したフォーサーズというデジタル一眼専用の規格は、APS-Cサイズのデジタル一眼陣営に対してはずっと苦汁をなめ続けてきました。
敗因はいくつかあるでしょうが、主に、

1)専用のレンズを揃えなければならない上、レンズの選択肢が狭い
2)値段が高い
3)APS-Cサイズデジタル一眼に比べ、圧倒的に小型軽量というわけでもない
4)レンズの焦点距離が短いため、背景をぼかしたポートレート写真などには不利

……といった理由でしょう。
この苦境を脱出するべく、2008年8月、オリンパスとパナソニックが共同で「マイクロフォーサーズ」という新たな規格を発表しました。
これは、従来のフォーサーズ規格の撮像素子面積(4/3インチ型=17.3×13.0mm)を守りつつ、カメラのボディをミラーレス構造にすることでさらなるボディとレンズの小型軽量を図る、というものです。
ミラーがなくなるということは、光学ファインダーを諦めるということを意味しています。ファインダーは液晶になるため、一眼レフの美点であった明るく見やすいファインダーというメリットが切り捨てられます。
その代わりに、液晶ファインダーとなることで、露出補正した結果がそのまま視認できるメリットがある、と主張しています。
私自身、フォーサーズというシステムは中途半端な気がしていました。いっそ、レンズ一体型高級機でフォーサーズ並みの撮像素子を持たせたほうが扱いやすいのではないか、と、常々感じていたので、今回のマイクロフォーサーズ規格の趣旨はよく分かります。

正直、1号機には肩すかしを食わされた感じ

G1 マイクロフォーサーズ規格の1号機は、パナソニックから発売されました。LUMIX DMC-G1といいます。
1号機開発者としては、ミラーレス構造となったことで光学ファインダーがなくなったことに対してどう評価が分かれるかがいちばんの気がかりだったのではないでしょうか。結果は、ファインダーは約144万ドット相当で、背面の液晶モニター(3インチ・46万ドット)を超えるスペックを持たせるという念の入れ方。背面の液晶モニターは完全フリーアングルなので、この魅力とも合わせて、合格点と言えるでしょう。
フォーサーズの撮像素子はAPS-Cサイズに対して6割強の面積しかないのに1200万画素(4000×3000ピクセル)という撮像素子を搭載。これが貧乏くさくて残念です。600万画素くらいにしておけば拍手喝采したのですが。
いちばんの問題はレンズでしょう。
せっかくのマイクロフォーサーズ規格なのですから、レンズはフォーサーズレンズをアダプターを介して流用するなどというのでは何のための小型化か分かりません。マイクロフォーサーズ専用レンズをつけてこそなんぼのものですが、セット販売されているレンズのスペックを見ると、
レンズキットに付属するH-FS014045という標準ズームが、14-45mm(28-90mm)/F3.5-5.6。手ぶれ補正機構内蔵。
ダブルズームキットはさらに45-200mm(90-400mm)/F4.0-5.6 という望遠ズームが付属。
どちらもF値が暗いのが残念。今後、単焦点のパンケーキ型レンズなども出てくるらしいですが、現在のところ、レンズはこの程度しか選べません。
F3.5-5.6ではフラッシュなしの室内撮影はまず厳しいので、せっかくの小型モデルも、本領発揮する場が限られそうです。
ボディの小型化を意識してか、手ぶれ補正機構もAF用モーターもレンズ側に組み込んでいますが、今後、マイクロフォーサーズ陣営全体がこの路線(ボディ内手ぶれ補正機構を持たない)でいくのかどうか、気になるところです。まあ、専用レンズしか使わないのですから、それで構わないとは思いますが、オリンパスとの共同歩調が取れるのかどうか、それによってレンズ開発陣の足並みも変わってくるでしょう。
ボディ内手ぶれ補正機構は今後も採用しないのであれば、マイクロフォーサーズ規格の成否は、レンズ開発にかかってきます。明るい単焦点レンズや、タムロンのAPS-Cサイズ用18-250mm並みの「これ1本でなんでも撮れます」的な超広域ズームなどが出てくれば、マイクロフォーサーズは、多くのデジカメユーザーにとって、フルサイズデジタル一眼よりずっと魅力的な選択肢になるでしょう。
同時に、フォーサーズ(従来型)カメラの事実上の終焉を迎えることになるかもしれません。

G10はG1(マイクロフォーサーズ)のライバルとなりえるか?

G10 マイクロフォーサーズに魅力的なレンズがまだ出てこない現状では、いっそ、撮像素子を大型化したレンズ一体型デジカメのほうが使い勝手の点でいいのではないかという考え方もできます。
しかし、レンズ一体型高級機というジャンルは、現在、事実上壊滅状態で、マイクロフォーサーズと比較できるような製品がありません。
候補と言えるかどうか分かりませんが、キヤノンが2008年10月にPowerShotシリーズに投入した、G10は、レンズ一体型高級機をめざして開発したものと思われます。
レンズは6.1-30.5mm(28-140mm相当)でF2.8-4.5という、なかなか使いやすそうなレンズ。
しかし、撮像素子は1/1.7型に1470万画素(4416×3312)と、ニコンのフルサイズ機よりも多い画素数を詰め込んでしまいました。まったく残念です。
1/1.7型というのは、対角9.321mmで、画素サイズは約1.75 μmです。これはフォーサーズの対角21.63mmに比べてはるかに小さなサイズです。ここにG1よりも多い画素を詰め込んだという時点で、もはや画質での負けは決定的でしょう。
1/1.7型撮像素子であれば、画素数は500万画素くらいで設計してほしかったですねえ。そうすれば、映像エンジンの設計がうまいキヤノンのこと、画質の点でもマイクロフォーサーズとそこそこバトルフィールドがかぶるくらいの勝負ができたのではないかと思います。いや、キヤノンの技術をもってすれば、絶対にできるはずです。
そうなれば、レンズを交換しなくてもこれだけきれいな絵が撮れるんだから、こっちでいいや……というユーザーが増えるはず。なんとも惜しいですね。
残念ながら、画素数の呪縛からますます逃れられなくなっているキヤノンには、マイクロフォーサーズと戦えるだけのレンズ一体型機は開発できないのではないかと思います。
というよりも、同じレンズ一体型コンパクトのLumix DMC-LX3に勝てません。というわけで、G10を買うなら、LumixのLX3をお勧めします。LX3は1/1.63型1010万画素。レンズはF2.0-2.8という明るさを誇ります。スペック的には、G10よりずっと魅力的です。

マイクロフォーサーズのレンズに魅力的なものが出てくれば、レンズ一体型高級機というジャンルは厳しくなるかもしれません。一方で、レンズ一体型高級機は撮像素子の画素数を落として実質上の画質を上げるという「あたりまえの設計」に立ち戻ることを決断し、現在の技術レベルで作れる名機を1台でも多く世に出してほしいものです。
LX3が「最後のレンズ一体型高級コンパクト機」にならないことを祈ります。
(2012年9月19日追記
 この祈りが通じたのか、市場が賢かったのか、2012年秋現在、SONYのRX100やパナソニックのLXシリーズといった名機が存在しています)
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